これまで数十社の賃金台帳や給与データ見せて頂きましたが、残念ながら給与計算のしかたを間違えている会社が多いです。社内で給与計算をする場合、何を基準に行っているのか、またはチェックできる人がいるのか疑問に感じています。
外部に委託すればその分コストがかかるため、社内で行うほうがいいと思っている会社もあります。ところが、正しい知識としっかりとした作業手順が確立されていないと、計算ミスや漏れなどが生じやすく、社員からの苦情でやり直しが発生して、結局社内でも余分なコストがかかっているのです。
働き方改革関連法案の成立後から、“残業や長時間労働を減らす”など、仕事の生産性を上げない限り、達成できないと思われるようなことを耳にするようになりました。給与計算のように、売上や利益に直結しない業務に人員を費やすことについては、会社によって判断が分かれるところです。
また、給与計算業務は社内で専属の担当者として長く勤めている人が多いです。そのため、業務が担当者しか知らない属人化や、周りからは見えないブラックボックスにもなってしまいがちです。担当者が退職、または休暇を取るだけでも現場が混乱することがあります。特に1人に任せている場合はかなりキケンです!
目次
- 外部に給与計算業務を委託する(アウトソーシング)
- 給与計算を委託する候補
- メリット・デメリット
- 給与計算の外部委託を検討する目安
- 給与計算の委託料金の相場
- 給与計算の委託先を選ぶポイント
- 当事務所が実際に対応した事例
1.外部に給与計算業務を委託する(アウトソーシング)
給与計算業務を専門に扱う事業者は、これまでの経験の蓄積や他社の事例、作業手順の確立など、効率良く正確に給与計算業務を処理しています。
依頼する側は、勤怠または賃金データの送信など、毎月一定の作業を行うだけで、業務が大幅に減って社員の負担も軽くなります。給与計算の専門事業者に委託すれば、社内の担当者が全ての責任を1人で負うなどの不安もなくすことができます。
給与計算専門の業者へ委託すれば、今まで給与計算業務を担当していた社員は、人事戦略の立案や制度設計などの業務を行った方が、今までより会社の成長に貢献できるようになります。
給与計算業務を自社で行うのか、または外部へ委託することについては、自社にとって最適な方を選択すべきです。
その際のポイントは、他に優先的に行う業務があるかどうかです。それが明確になっている場合、給与計算をしていた時間を他の業務に割り当てて専念させ、外部委託料を払っても売上や利益が得られるなら、外部委託すべきです。逆に、社員の人手が余っている状況であれば、社内で処理することもいいかと思います。
2.給与計算を委託する候補
給与計算業務を外部委託しようと考えた場合、相手先の選択肢は社労士や税理士、または給与計算専門会社などいくつか考えられますが、どこに頼むべきか、何を基準に判断すべきか難しいと思います。
従業員が数名程度の会社で、残業がなく計算もしやすく、委託費用も安い方が良いということであれば、料金で判断して委託してもいいのではないかと思います。
また、小規模な会社でも顧問の税理士がいる場合が多いため、その事務所が格安または無料で給与計算を引き受けることもあります。
※税理士によっては給与計算をやらないこともあるため、確認が必要です。
しかし、従業員が数十~数百人規模である場合、または数名であっても労働保険料や社会保険料、残業代の正確さを求めたいという場合には、社労士に委託するほうがいいでしょう。
なぜなら、給与計算業務では間違いが多く見られます。なかでも、社会保険料の計算および労働時間の計算は特に多いです。ですので、これらを専門領域としている社労士に依頼することをおすすめしています。
社会保険料の計算については、保険料の月額変更届など法令通りに行われている会社は意外と少ないです。あと、以下の点について間違いが多く見られます。
- 社会保険料の控除のタイミング
(入社及び退職時、育休開始及び終了時、64歳・70歳・75歳到達時など) - 介護保険料の控除のタイミング(40歳・65歳到達時、海外出向時など)
- 退職月の賞与の社会保険料
- 退職後の賞与の雇用保険料
- 定年到達時の同日得喪
さらに、勤怠の集計についても、
- 残業時間(法定内・法定外)のカウントのしかた
- 変形労働時間制の残業集計
※対象期間途中での退職による残業時間の集計含む - 残業単価と月平均所定労働時間数の計算方法
- 所定休日と法定休日の取扱い
- 振替休日と代休の取扱い
など、
知識がなければ正確に計算できないことも多数あります。
また、労働保険・社会保険の手続きについても、従業員が数名の会社であれば入社時・退職時の手続き程度で済むかもしれませんが、規模が大きくなれば様々な手続きが発生するため、給与計算と併せて社労士に委託するのが効率もいいはずです。
社労士事務所は、ソフトウェアまたはシステムによって、給与計算業務を行うことが多いです。しかし、数百人を超え千人規模の会社になれば、独自の給与システムを構築することをおすすめします。ですので、システム開発から給与計算実務まで、トータルでお任せできる給与計算専門業者に委託することをおすすめします。
ただし、委託する前に、システムや組織だけでなく、担当者の実務能力や成果物の品質などを十分に精査してください。
※なお、給与計算専門会社が労働保険・社会保険の手続きを代行すれば、違法となることがあります。ぜひ頭に入れておいてください。
3.メリット・デメリット
給与計算業務委託のメリット
給与計算を外部委託した場合のメリットについてみていきましょう。
メリット1.売上や利益を生み出す業務へ集中
給与計算は専門知識が必要な業務であり、毎月行なわれる定型業務でもあります。(定型業務=タイムカードの集計やソフトへの入力、給与計算、明細の発行など)業務が手順通り正しく行われることは大切ですが、これは会社の売上や利益を生み出すものではありません。
しかし、定型的な業務を外部に委託することで、売上や利益を生み出す業務に人材と金銭的資源を集中させることができるため、メリットも大きいでしょう。
メリット2.人的・物的コストの削減
給与計算にかかるコストは2つあります。
- 担当者にかかるコスト
- システム(またはソフトウェア)にかかるコスト
です。
担当者にかかるコストには、専門知識をもつ人の人件費や正しく給与計算を行なうための育成費用があります。
システムやソフトウェアにかかるコストには、毎月の利用料や開発費のほか、毎年のように発生する法改正・税制改正に対応する費用も含まれます。
ですので、給与計算を外部委託すると、人とシステムの両方にかかるコストをおさえることができます。
メリット3.業務の繁閑に合わせた人員を確保できる
給与計算業務は、時季によって必要な人数が変動する業務でもあります。
たとえば、賞与を出す時期や年末調整の時期は、業務をスムーズに行なうためなら通常よりも人数が必要です。そのうえ、専門的な知識を要する業務であり個人情報も扱うため、安易に人を雇うこともおすすめできません。
しかし、繁忙期に必要な人数を普段から確保し続けるわけにもいきません。この場合は、人件費がかさむことになります。給与計算業務を外部へ委託することによって、業務の繁閑に左右されることはなくなります。
メリット4.残業時間の管理をする
給与計算を外部委託する場合でも、計算の元になる勤怠管理は、社内で行なう必要があります。勤怠管理がしっかり行われていない会社に対しては、勤怠システムやソフトの導入または勤怠管理の必要性をアドバイスします。
メリット5.給与データや給与明細がクラウド上で管できる
委託先で使用するシステムにもよりますが、クラウド対応している場合は、給与データ管理の安全性が高まります。また、これもシステム次第ですが、パソコンやスマホでアクセスすることによって、給与明細がいつでも確認できる場合もあります。これなら、紙の明細を発行する必要もないため、無くすこともありません。
メリット6.法改正への対応
給与計算の担当者は、ソフトウェアの更新だけでなく、常に法改正の情報をキャッチして、社内で対応しなければいけません。しかし、専門家でもない人が法改正情報をタイムリーに入手することや、その内容を理解して対応することは、正直かなり難しいことだと思います。
法改正への対応についても委託先に任せることができれば、社員の負担が軽減されることになります。
給与計算業務委託のデメリット
メリットが多いと思われる給与計算業務の外部委託ですが、デメリットがないとは言えません。以下、いくつか挙げてみます。
デメリット1.社内にノウハウが蓄積されない
勤怠チェックから給与計算まで全て外部委託する場合、これまで社内で給与計算業務を行っていた人は余剰になります。その人材を他の業務に割り当てるなど、人員配置を再検討することが求められます。
また、給与計算担当者がいないことによって、社内に蓄積されるべきノウハウがうまく残せない可能性が高くなります。万が一、急に委託先の会社と契約が終了した場合は社内で対応できず、他の委託先を探すこともリスクになるかもしれません。
あと、法改正などについて気軽に聞けなくなると、社内での業務に支障をきたすことも考えられます。
デメリット2.社外でのデータ流出の危険性
委託先にもよりますが、事務所や会社によっては集計などの作業を行なうのは契約社員やアルバイトであることも考えられます。また、委託先から別の会社に再委託されている可能性もあります。ですので、社内体制も確認が必要です。
社員の大切な個人情報や給料データなど、重要な情報を社外に提供する場合は、委託先でのデータ管理の安全性を確認することが必須です。リスクもあるということを認識しておきましょう。
デメリット3.多少の業務は社内に残る
給与計算業務の委託のメリットの1つはコストの削減ですが、給与計算だけでなく年末調整や住民税の更新まで委託したとしても、結局削減できるのは、給与計算に関する業務に限られます。
勤怠管理や労働者の個人情報の更新などは、システム次第ではデータの共有も可能ですが、社内で行わなければならないことも多いです。また、外部委託する場合、社内業務の締め切り日が早めに設定され、委託する前よりも一時的に業務が忙しくなる可能性もあります。
※これは、締め日から給与支給日までの日数にもよります。
4.給与計算の外部委託を検討する目安
メリット・デメリットともにある給与計算の外部委託ですが、どのような会社が外部委託を行なうのがよいのでしょうか?
ここでは2つの目安をご紹介します。
(1)従業員数が10名を超え数百名規模の場合
従業員が10名以下の会社でしたら、社内で給与計算業務を行っても対応できる業務量だと思います。しかし、人数が10名を超えてくると、その業務量は人数に比例するか、もしくはそれ以上に増えていきます。
繁忙期の業務に対応することも考え、従業員の人数を目安に外部委託を検討されるといいでしょう。
(2)正確な給与計算を求める場合
従業員が10名以下の会社では、経理または他の部署の担当者が給与計算を兼任することが多いようです。
給与計算担当者が社労士資格を持っているケースはほとんどなく、自分で勉強しながら業務を行っているケースが多いです。誰が担当するにしても、給与計算が正しく行われないと、労務のリスクが大きくなります。
リスクを回避するために、正確性を重視して外部委託することを考えましょう。
5.給与計算の委託料金の相場
ここでは、給与計算業務を外部に委託する際の一般的な相場について説明します。
(1)給与計算のみの場合(勤怠のチェックは含まれません)
(勤怠チェックは社内で行い)給与計算のみを委託する場合、一般的な料金の相場は、社員50人程度の会社であれば、1ヶ月5万円程度になります。
給与計算のみなら、受託会社にとっても年間を通じて業務を標準化でき、それほど負担にならないため、数万円程度で受託できるのです。
(2)年末調整代行、住民税更新代行も外注する場合
会社にとっては、給与計算のみを外部委託するだけでも、人的コストは削減できます。しかし、年末調整や住民税更新の負担も大きいため、これこそ委託したいと考える会社も多いです。
その際の料金相場は、社員50人程度の会社で10万~20万円程度になります。また、勤怠チェックや社会保険関係の管理まで依頼した場合には、1ヶ月当たりの料金は、個別にご相談となります。
6.給与計算の委託先を選ぶポイント
実際に外部委託を検討し始めたときは、複数の委託先を比較することになるでしょう。その際に見るべきポイントをご紹介します。
(1)柔軟な対応とそのスピード
毎月の締め日や給与振込日に応じて、委託先の担当者の対応の早さや柔軟性について事前に確認しておくべきです。給与振込日に間に合わせるため、自社内での作業をいつまでにどの程度行わなければいけないかなど、期日と双方の作業内容を把握しましょう。
(2)正確性と専門性
給与計算は、とにかく正確性が求められます。どの程度の専門的知識を持っている事務所(または会社)か、どの程度の規模の会社の給与計算を行った実績があるのか、これも見るべきポイントになります。
(3)情報管理の安全性
従業員の個人情報や給与データを外部に渡すことになるため、情報保護の観点から、委託先がどのように情報を扱うかを確認することが必須です。
実際に、自社で様々な角度から委託先のことを見て、提示された料金と上記のポイントをおさえて、価格に見合うサービスかどうか判断することをおすすめします。
7.当事務所が実際に対応した事例
当事務所で、実際に給与計算に関する業務をご提供するなかで解消した事例をご紹介いたします。
・計算期間締日から給与支給日までの日数が短い場合、支給日を変更した。
(ex.末日締め、翌月5日払い ⇒ 15日払いに変更)
※各従業員の同意が必要です
・給与計算時のミスが改善された。
(残業代、手当の額、社会保険料の額、雇用保険料の額など)
・社会保険料や雇用保険料の納付額が適正になった。
(納めすぎた金額を2年分取り戻したこともあります)
社会保険料や残業代など、間違いやすい計算を正確に行いたいなら、給与計算は社労士に委託するのがおすすめです。